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保育をめぐる情勢
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いろはにほいく ちえぶくろ [25]
不十分な「異次元の少子化対策」

岩狭 匡志 (大保連会長代理)


 政府は、異次元の少子化対策として「こども未来戦略方針」を6月13日に閣議決定しました。
 少子化は、コロナの影響から予定より早く進み、このままだと、いま保育を受けている子どもたちが高齢者になるころには社会機能の維持が困難と言われています。このため2030年までに少子化反転の対策が必要となっています。

少なくとも6~10兆円必要

 政府の少子化対策は、年間3・5兆円の追加予算に、児童手当拡充(1・2兆円)や子育てサービス拡充(0・8兆円)などが盛り込まれていますが、これでどう反転するかは不明確です。そのうえ、国会公述人の柴田教授(京都大)は、少子化対策は少なくとも年間6~10兆円近くの予算が必要としていて、政府の対策規模が貧弱との印象を受けます。
 また、政府がこれまで公言してきた「こども予算倍増」が「2030年代初頭までにめざす」と先延ばしされる一方で、「防衛予算の倍増」は2027年にも早々に達成させる見込みなど、少子化対策は後回しで防衛費優先の姿勢が際立っています。
 さらに、少子化対策の財源は、社会保障費の枠内でのやりくりや新たな国民負担増が検討されていて、将来不安の増加から逆に少子化を進めかねない状態です。

配置できた場合に加算される基準改善

 財政規模的に不十分な少子化対策ですが、内容的にどうなっているのかと言えば、「保育士の配置基準改善」(1歳児を5対1に、4・5歳児を25対1に)や「こども誰でも通園制度(仮称)」(3歳未満児を中心に就労の有無によらない柔軟な保育利用)が盛り込まれています。
 今回の配置基準改善は、子ども・子育て支援新制度開始の2015年から棚上げされていたため、改善は当然のことですが、実質的な最低基準である内閣府令そのものの改善ではなく、配置できた場合にだけ費用補助する加算方式につき対応は不十分です。また、いつから実施するかも明記されていません。
 一方で、「こども誰でも通園制度(仮称)」は今年度からモデル事業が開始され、2024年度から実施していくことが明記されており、配置基準とは扱いが異なっています。制度の詳細が明らかになっていませんが、わずかながらの配置基準改善と引き換えに現場負担が増えることにならないかと懸念されており、注視する必要があります。
 さらに、保育士の処遇改善については、改善が進むのか不透明な状態で、これで保育士不足や保育の質向上という課題が解決するとは思えません。

国際水準並みの基準に!

 そもそも保育の現状は、2022年4月時点で隠れ待機児童が7万人を超えるなど、一部地域では希望する保育施設の利用が困難で誰でも通園どころではないところと、逆に少子化による定員割れで保育施設運営が困難な地域もあるなど、安心で安定的な保育利用が保障された状態ではありません。さらに、国際的に低水準な保育環境と保育者の過酷な労働実態などが、豊かな保育とは程遠い「不適切な保育」や重大事故を構造的に生み出し続けています。
 現行制度の保育士の配置基準、保育室面積基準、給与水準などは国際的に見ても低すぎることから、わずかばかりの配置基準改善だけで満足するのではなく、保育の基準を国際水準並みにすること、保育士の賃金を全産業平均並みにすることなどで、保育士の過重負担と人材不足を解消し、子どもと保育士に世界であたりまえの保育環境を保障できるよう、さらに運動を強めることが求められています。


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